夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
◆◆◆◆

 ランスロットは不安だった。いくらイルメラがついているといっても、昨日の今日であり、シャーリーの記憶が戻ったばかりだ。
 二年かけて築いた関係を取り戻したところを、また失うのが怖かった。
 そもそも、他の女性は私的にランスロットに近づいてこない。それは彼の見た目と他人に対する態度が原因だ。それを乗り越えて近づいてきた女性がいたとしても、それはランスロット自身に興味を持ったわけではなく、彼の持っている地位が目当てなのだ。そういった女性ばかり見てきたため、彼も敏感に見極めることができるようになっていた。
 そんななか、ランスロットをランスロットという一人の男性として見てくれたのが、シャーリーだった。彼の肩書きにとらわれず、見た目でも判断しない。男性が苦手なシャーリーだからこそ、ランスロットの本当の心に気づいてくれたのだと思っている。
 ランスロットは仕事中のメモを使い、一年かけてシャーリーとの距離を近づけた。あのメモがあったから、良かったのかもしれない。
 男性が苦手なシャーリーと、見た目が怖いランスロットの二人なのだ。
 付き合い始めた頃も、彼女は年齢差を気にしていたし、どことなくよそよそしかった。それを押し切っていきなり婚約にまで持ち込んだ。彼女を手に入れるなら、世間体や手段を選んではいられないと、ランスロットの本能が爆発していたのだ。
 彼女が親しみを込めた口調で話しかけてくれるようになったのも、結婚式の一か月前からだ。
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