夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 それまでは、敬語を交えながら、どことなくよそよそしい会話しかできなかった。やっとランスロットに心を開いてくれたと思っている。そして、心を開いたシャーリーは強かった。
 彼女の口から出てくるのは、家族の話ばかりだ。家族のために、その気持ちが彼女の背を押していたのだろう。
「やはり、俺も行く。準備をしろ」
 セバスに向かって声を張りあげるが、セバスは頑なに首を横に振るばかり。
「今ご無理をなされて、後遺症などが残ったらどうするおつもりですか? 下手をすれば、一生、左腕が動かなくなる可能性がございます。とレイモン様がおっしゃっておりました」
「そのときは、シャーリーに世話をしてもらうから問題はない」
「旦那様は問題なくても、奥様的には問題大ありでございます」
「ぐぬぅっ……」
 ランスロットがシャーリーの側にいたいのには理由があった。
 彼女が好きだからだけではなく、とにかく嫌な予感がするのだ。これは、騎士の勘というもの。たいてい、この嫌な予感は当たるから質が悪い。
 ランスロットがセバスと押し問答を繰り広げていると、エントランスの方が騒がしい。
 この寝室にまで響くような声で、誰かが騒いでいる。
「旦那様、私が様子を見てまいりますので。いいですね、絶対に動かないでくださいよ」
「ちっ。わかった。わかったから、さっさと様子を見てこい。うるさくて寝られない」
 ふん、といじけたランスロットは布団の中に潜り込んだ。
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