夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「いつもと同じように動けぬランスは、手負いの熊以下だ。邪魔になるから、大人しく寝ていろ。だが、どうしても彼女のために動くと言うのであれば、それを飲んでからにしろ。毒の影響を一時的に緩和してくれる。だから、いつもと同じように動けるはずだ。レイモンからもらったものだから、効果は確かなはず」
 ジョシュアが全てを言い終わらぬうちに、ランスロットは小瓶をキュポンと開けて、中味を一気に飲み干した。
「着替えたらすぐに出る。お前たち、騎士の間に集合だ」
 外にいると思われるジョシュアの護衛に声をかけたランスロットは、すぐに着替え始めた。
「お前の生着替えを見せられても不快なだけだから、私も先に戻る」
 ジョシュアはそう言葉を残すと、護衛を引き連れて王城へと戻っていく。
 手早く着替えたランスロットも、馬にまたがり王城を目指す。馬車で悠長に移動している場合ではないと判断した。
 引き攣るような痛みがあった左腕も、今は難なく動く。
 ジョシュアからもらった薬が効いているのだろう。
 王城に着いた彼は、すぐさまアンナの元へ足を向けた。レイモンがどこにいるかを確認するためだ。
 事務室にランスロットが姿を現すと、アンナは慌てて席を立ち、事務官たちに指示を出してから彼の側へとやって来た。
「ハーデン団長。ご案内いたします」
 そう口にした彼女の表情も、どことなく疲労の色が見え隠れする。
「まだ、他の者には彼女の件は伝えておりません。下手に騒ぎを大きくしてしまえば、解決するものも解決しなくなると思いましたので」
 やはりアンナは聡い。
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