夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 ランスロットとシャーリーは仕事先で出会った。
 男性が苦手なシャーリーであるが、お金がなければ生きてはいけない。昔から仲が良く、姉的存在であったアンナにそれとなく伝えたところ、王城で働く者たちの事務的なことを手伝う事務官の仕事を紹介してもらえた。
 シャーリーは数字が大好きで計算が得意だからだ。
 その仕事先で出会ったのがランスロットである。
 二人が結婚にまで至るにはいろいろとあり、年も十歳も離れているが、このように夫婦となれる喜びを心から噛みしめていた。
 大聖堂から外に出た二人は、外の眩しさに目を細め、腕を組んだ。
 下の広場まで大階段が続いている。
 そこには、そんな彼らを一目見ようと大勢の人たちが集まっていた。
 たくさんの花吹雪が舞い、祝いの言葉をかけられる。
 うっすらとたなびく白い雲が、空の青さを引き立てている。
 シャーリーはもう一度、隣に立つ夫を見上げる。

 愛しています――。

 誰にも聞こえないような声で、シャーリーは告げた。
 途端、ランスロットの顔もしまりがなくなる。
 そんな二人はもう一度顔を見合わせてから、ゆっくりと大階段を歩き出した。
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