夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 ウェディングドレスのトレーンも、大階段にしゅるしゅると波を打つ。
 祝福の声に包まれた二人は、一歩、一歩、笑顔を振りまき、手を振りながら階段を下りていく。
 だが、シャーリーは太陽の光を反射させている何かが眩しく、思わず目を細めた。
 そして、彼女は気づいたのだ。太陽の光を反射させていたのは短剣であり、その剣先がまっすぐにランスロットに向いていることに――。
 このような祝いの席で、誰もが浮かれていたのは事実だ。
 短剣を手にしている男は、人込みに紛れ、誰にも悟られぬように、ゆっくりと二人の方に近づいてきている。
 シャーリーが隣のランスロットに視線を向けると、彼は集まった仲間に声をかけられ、照れたように顔を赤らめていた。
 だから、彼は知らない。
「ランス」
 シャーリーが夫となった男の名を口にした。
 何が起こるのか。
 ランスロットも察する。それでも、身体の動きは間に合わなかった。
 周囲にいた者たちも、ランスロットに向かう男に視線を向けた。
 シャーリーはランスロットを庇うかのように、男の前に立ちはだかった。
 男もシャーリーが邪魔であると言わんばかりに、彼女の肩に手をかけ、彼女の身体を力任せに押す。
 すぐさま男は、他の者たちに捕らえられた。
< 3 / 216 >

この作品をシェア

pagetop