夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「奥様を逃したら、もう二度と旦那様と結婚してくださるような女性はおりませんよ? ここは、ゆっくりと奥様が記憶を取り戻すことを、優先させるべきではないのですか?」
 イルメラがビシっと口にすれば、ランスロットは「うぅ……」と悔しそうに歯を食いしばっていた。
 だが、それでも納得はいかないらしい。部屋の壁際に置かれている机の中から、ごそごそと何やら取り出すと、それをイルメラに手渡した。
「これを、シャーリーに」
 イルメラを経由して、シャーリーの手元に渡った一枚の用紙。何が書かれているのか不思議に思い、シャーリーはそれに視線を落とした。
「え、結婚、宣誓書……?」
 結婚宣誓書は、二通作られる。婚礼の儀に立会人の前で同じ宣誓書にサインをする。そして、一通は大聖堂で保管され、もう一通はこうやって自分たちで保管するのだ。
 そして、その結婚誓約書に書かれていた名前は、間違いなくランスロットとシャーリーの名だった。
「うそ……」
 シャーリーに記憶はない。
「偽造……」
 そのような考えが頭をめぐる。誰かが、シャーリーの名を語って、誓約書にサインをしたに違いない。
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