夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「うそでも偽造でもない。君は、間違いなくそれにサインをした。筆跡も確認しろ」
 荒ぶった声でランスロットが口にしたため、またシャーリーは肩を震わせた。
「す、すまない。怒っているつもりも、驚かせているつもりもない。ただ、俺はこんな性格だから」
「寮に……、寮に戻ります」
 シャーリーは、王城勤めの者たちが共同で生活をする寮に住んでいた。もちろんその寮は、女性だけが暮らしている寮である。
「女子寮に君の部屋はもうない。俺と結婚したからな」
「そんな……」
 シャーリーは顔を伏せて、毛布をぎゅっと掴んだ。
「奥様」
 不安なシャーリーを、気遣うように声をかけてくれたのはイルメラである。
「幸いなことに、ここには衣食住が揃っております。まずは、ここでゆっくりと静養されてから、今後のことをお考えになってはいかがですか?」
 その言葉に、はっと顔をあげたシャーリーはイルメラの顔を見つめた。彼女は満足そうに頷いている。それから、恐る恐るランスロットに視線を向けると、彼は怯えたようにシャーリーを見つめながら、「そうしろ」とだけ言った。
『燃える赤獅子』の二つ名を持つランスロットの怯えたような姿が、なぜかシャーリーの心に突き刺さった。
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