夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「そうだ、シャーリー」
 ランスロットは、何かを思い出したかのように彼女の名を呼んだ。
「先ほどは助かった。ありがとう。また、ああいったお願いをしてもいいだろうか?」
 先ほどと言われて、シャーリーは小首を傾げる。何をしたのか、思い出せなかった。
「あの、書類だ」
 ランスロットがそこまで口にしたところで、彼女ははっと思い出した。
 急ぎ確認してもらいたいものがあると、イルメラから手渡された書類。
 数値が羅列してあったため、何かの会計報告書であると思った。だが、計算がところどころ間違えている。桁がずれていて、零が足りていないところもあった。
「はい。お役に立てて何よりです。それが、私の仕事ですから」
 シャーリーは事務官だ。騎士や魔導士や薬師の誰かの専属事務官ではなく、いろんな部署の少し足りないところを手伝うような、何でも屋のような存在の事務官である。
 特に、こういった計算を必要とする予算案や決算書の最終確認をするのがシャーリーの役目である。彼女の確認を受けた書類が、その後、監査室に提出される。
「それから……。あのメッセージも嬉しかった」
 メッセージ。それは、シャーリーが修正案の下の方に少しだけ書いた文章のことだろう。
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