夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
◇◆◇◆

 ある日、彼女は困っていた。
 遠目からであっても、机の上の彼女の手が動いていないことにランスロットも気がついた。
『どうかしたのか?』
 見かねたランスロットが声をかけると、シャーリーはやはり困ったように顔を向けた。
『ええと、こちらの書類の修正内容が。少し細かいところがありまして。文章で説明するよりも、口で説明した方が早いかと思っているのですが……』
 そこで彼女の悩みを察した。
『わかった。そこのソファで聞こう。俺は君から離れて座るから』
 困惑したような笑みを浮かべたシャーリーであったが、彼女は頷き、書類を手にして席を立った。
 彼女はソファの隅っこにちょこんと座り、テーブルの上にランスロットによく見えるように書類を広げた。ランスロットは彼女の対角線上に座った。
『このくらいなら、大丈夫か?』
『あ、はい』
 彼女の身体が強張っていることにランスロットは気づいたが、これ以上はどうしようもないため、平静を装うことにした。
『こちらの資料なのですが……』
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