オフクロサマ
逃げる人
頭の中で何度も『オフクロサマ！』と連呼されているようで、智香は両耳を塞いだ。


「大丈夫か？」


裕貴に肩を擦られてどうにか頷く。


正直あの祭りを見てから気分が悪くて、屋台で食べたものを吐いてしまいそうだった。


「なんだろうなあの祭り。ちょっとおかしいよな」


公会堂に戻ってきたものの、まだ衝撃はふたりの中に残っていた。


あのあと黒い和服の男と気味の悪い人形はそのまま退場して行き、いつの間にか会場内の活気も戻ってきていた。


だけど結局あれがどういう意味で行われたものだったのか、わからないままだった。


安喜くんから説明を受けようと思ったのだけれど、智香の調子が悪いので早々に戻ってきてしまったのだ。


「私、あれに似たお祭りを知ってる」


「え？」


驚く裕貴に智香はスマホを取り出した。


青森県には「オコモリ」という祭りがあり、「オコモリ」では実際に参加者たちが米と汁をお腹がパンパンになるまで食べるのだ。


おかわりする際には「めしー！　しるー！」と叫ぶらしい。

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