無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「なにもないよ。聖くんが友達と楽しそうにしてたからいいなぁって思っただけ」

 視線を逸らせて誤魔化したものの、彼にはすべてお見通しなのだろう。
 聖くんは不思議そうな顔で眉根を寄せ、じっと私を見た。

「もしかしてそれって、知鶴さんも俺ともっと仲良くしたいっていう、いわゆるヤキモチ?」

「全然違います」

 なぜそうなるの。私がなにか誤解させる発言をしたとは思えないのだけれど。
 聖くんは自分に自信があるから、そういう発想に至りがちなのかもしれない。
 無表情で全否定しながらハンバーグの部分にナイフを入れていると、隣に立ったままの聖くんがアハハと笑った。

「俺さ、今日は十九時で上がりなの。話しながら一緒に帰ろうよ」

「でも、帰る方向が同じとは限らなくない?」

「同じだよ。……たぶんね。俺の勘」

 互いにどこに住んでいるのか知らないのに、どうしてそう言い切れるのだろうか。

「まぁいいじゃん。一緒に帰るのは決定ね! ゆっくり食べて、俺がバイト終わるまで店にいてよ」

「……わかった」

 嫌ならはっきり断ればよかったのだけれど、そこまで拒否する気持ちはなかった。
 たまには誰かと歩きながら話すのも楽しいと思う。
 元々私はなにげないことで小さな幸せを感じるタイプだし、聖くんの明るい性格が私の胸の中にある(もや)を晴らしてくれそうだ。

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