無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「ねぇ、どうして聖くんは私と話そうとしてくれるの?」

 ご飯を食べ終えた私は、勤務が終わった聖くんと連れ立って駅まで歩き、気になっていたことを率直に聞いてみた。
 聖くんはまだ若いし、言うまでもなくモテる。
 だったら仕事のあとは友達と遊ぶとか、かわいい女の子とデートを楽しんだりして自分の時間を有効に使ってほしい。

 今日の私の様子がどこかおかしかったのだとしても、私はただの常連客なのだから、カフェ店員として当たらず障らずな態度で接していればなにも問題はない。
 だけど彼は私を元気付けたり励ましたりしてくれる。その理由がいつもわからなかった。

「実は……俺が高校のときに好きだった女の子にちょっと似てるんだよね」

「ウソ?! 元カノさん?」

「ううん、付き合ってはない。俺の片思い。その子ね、俺の友達の彼女だったんだ。だから告白どころか誰にも言わずに自分の気持ちを封印した」

 もう昔の話だとばかりに、空を見上げながら笑い飛ばしているけれど、彼の中で辛い思い出として記憶されているのだと思う。
 その子のことが大好きだったのかな。聖くんは一見チャラそうだけれど、恋愛事情は見た目だけではわからないものだ。

「というわけで、知鶴さんに元気がないと心配になる。俺、こう見えてけっこう聞き上手だから、胸の中に溜めてることを全部言っちゃえば?」

 私がそんなに顔や態度に出るタイプだとは知らなかった。自分では常にポーカーフェイスなつもりだったのに。
 これまでもずっと彼には感情がバレていたのかと考えたら、途端に恥ずかしさが込み上げてくる。

「仕事の悩み? 職場で誰か厄介な人がいるとか?」

「違うよ。私の人生、これからどうしたらいいんだろう、みたいな感じかな」

「すごく壮大な悩みだな」

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