無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 話しながらも改札を抜けたところで、聖くんが盛大にあきれた顔になった。
 信じられない、とばかりに首を小さく横に振っている。

「あのね、地味とかそういうのは関係ない。襲われるときは襲われる。知鶴さんは油断しすぎだ」

 そんなもんなのか、と考えを改めて、コクリとうなずいた。
 たしかに、警戒しなければいけないのは痴漢や変質者だけではなく、引ったくり目的の犯罪者にもだ。

「俺、今はっきりわかった」

「ん?」

 聖くんはなにかにハッと気付いたみたいで、驚いたような顔をして私を見た。

「知鶴さんが変質者に付け回される場面を想像してたんだけど、俺、そいつを捕まえたら力いっぱいブン殴ると思う」

「それはやりすぎじゃないかな?」

「知鶴さんに恐怖を植え付けるなんて絶対許せないよ。でも、なんでそう思うのか考えたら、ひとつの答えにたどり着いた」

 真剣に彼の話に耳を傾けつつ、その答えとやらがなんなのか、私なりに考えてみた。
 聖くんはほかの人よりも正義感が強めなのだろうか、とか。

「俺、知鶴さんが好きなんだ。そっか……だから想像上の変質者にもこんなにムカつくんだ」

「す、好き?!」

「うん、好き。ダメ? あ、もちろん恋愛対象としてね。そこはしっかり伝えとかないと、天然な知鶴さんは、友達としてでしょ?って返しそうだからなぁ」

 この人は突然なにを言い出すのだろうと唖然として固まった。真に受けたらいけない気がする。

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