無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 あまりにも抽象的すぎて、聖くんは全然ピンとこなかったみたいだ。
 だけどバカにして笑ったりせず、腕組みをして一緒に考えてくれる聖くんは本当にやさしい。

「若いときににしか出来ないこともあるからさ。今を大事に生きなきゃ。だから俺も、ちゃんとサーフィンと向き合う」

「うん、がんばってほしい」

 聖くんはプロサーファーになりたいみたいだけれど、どうやらプロテストに合格できるのは子どものころから熱心に取り組んでいるごくわずかな人たちらしい。
 プロになったからといって収入が保証されるわけではないし、年齢が二十三歳というのもあって、将来を考えたらあきらめるかどうか迷っているのだと以前に話してくれたことを思い出した。

「インドネシアに気に入ってるサーフスポットがあるんだよ。また行きたいな」

 将来を見据えて新しい道に進むにしても、自分自身で納得しなければ、サーフィンをあきらめられないと聖くんもわかっているのだ。
 全力を出し尽くして、ダメなら次を考える。そうしないと気持ちが残ったままになる。
 それは私に置き換えても言えることだ。私は志賀さんに思いの丈をすべて伝えていないから今現在こうなっているのだろう。

 たわいもない会話をしながら歩いていると駅にたどり着いた。
 どこの駅まで行くのかを聞かれたので答えると、聖くんの家も同じ方向だと言うので、連れ立って同じ車両に乗り込む。 
 私の最寄り駅のホームに到着したところで、聖くんに「またね」と声をかけて降りようとしたら、なぜか彼まで電車を降りてしまった。

「え、聖くんもこの駅?!」

「違うけど、家まで送るよ。俺がそうしたいの」

 すでに太陽は沈んでいて暗くなっている時間だけれど、送ってもらうなんてとんでもない。
 腕時計に目をやれば、時刻はまだ二十時になっていない。これくらいの時間に帰宅することはよくあるから平気なのに。

「夜道は危ないでしょ」

「大丈夫だよ。誰も私みたいな地味な女を襲ったりしないもん」

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