無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「俺が知鶴さんを好きだとダメなんすか? 気に食わない?」

「……」

「俺に対して素直になっても仕方ないっすよね? 知鶴さんは天然だし自己評価が低いから、はっきり言わないと伝わらないですよ。って、俺は誰をアシストしてるんだか。アホらし!」

 杉崎は盛大にあきれた顔をして、颯爽と駅の改札を抜けていった。
 二十三歳のチャラついた若造に正面切って正論を言われた俺は、途端に情けなさが込み上げてくる。

 彼女の気持ちがわからないからずっと戸惑っていたが、そんなことはどうでもいいのだと、たった今アイツに気付かされた。
 大事なのは、俺が神野さんを好きだという気持ちだ。
 このままだと、彼女が田舎に帰るのを辞めて東京に留まったとしても、杉崎と付き合う可能性も出てくる。

『早く捕まえろよ。モタモタしてたらほかの男に取られるぞ?』
 奥山先生の言うとおりだ。なぜ俺は悠長に構えていたのだろう。
 この先の人生で、神野さんみたいな人とは二度と出会えないかもしれないのに。

 早急に彼女との距離を詰めていこう。
 逃がしはしないさ。必ず振り向かせてみせる。

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