無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「あ、それと……知鶴さんをあんまりいじめないでもらえます?」

「は? 振り回されてるのは俺のほうだ」

 不躾なのは承知で言い返した俺に対し、口を押さえて笑いを堪えているこの男の態度にカチンときた。
 言い争うつもりはまったくなかったが、万が一口論にでもなればカフェに迷惑がかかるので、ふたりで店の入口から離れて駅のほうへ歩き出す。

「君、名前は?」

「杉崎 聖です」

「杉崎くん、どういう伝わり方をしてるのか知らないが、俺が彼女を一方的にからかってるとでもと思ってるなら心外だ」

 まぁ別に、コイツに誤解されたままでも一向に構わないけれど。

 彼女は自分から驚くほど積極的に急接近してきたかと思ったら、忘れてくれと言って俺を避けるようになった。それが俺の中での真実だ。
 わけがわからない。俺に気があるのか、ないのかさえも。
 一連の行動を理解できない俺がおかしいのか?

「君は友達なんだから、彼女の変わった行動や性格を知ってるんじゃないのか? ……いや、もういい。わざわざ話すことではないな」

「まどろっこしいなぁ。好きじゃないならバッサリ振ってくださいよ。俺としては弱ってる女のほうが落としやすいんで」

「やめろ」

 ずっとニヤニヤとした笑みをたたえていた杉崎が、急に歩みを止めて面倒くさそうに顔をしかめ、小さく溜め息を吐いた。

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