今夜も君を独り占め。
近くに黒い車がつけてある。

目の前の男の物だ。

そいつは俺を見ても,さっきのやつのように恐れる事はない。

中身は特に,俺よりずっと偉そうな人間だ。

長い睫毛にキレイな肌。

カッコいいとも,綺麗とも言える顔の造形。

その綺麗な瞳からの視線は,惜しみ無く俺に注がれている。



「お互い様だろ。お疲れ」



あまりに美形なその顔は,瞬き1つで星を生んでいるかのようだ。

寄井 碧(よりい  あお)

28の俺の,3つ年下。

もう少し若くも見えるけど,現在25歳。

キレイで,女にだってうんと優しそうに見えるこいつは……



「ひどいなぁ,迎えに来てあげたって言うのに。もう少し優しく対応してくれないかな? 俺はあつの……恋人なんだから」



水野 篤(みずの あつし),俺の恋人だ。

こいつは俺の,1番の秘密。

悪戯に目を細める碧を,俺は見た。

ーどんな女も夢に見る,この男の事を,俺のものと呼ぶには語弊がある。

たっと碧が俺に寄って,手を伸ばしながら背伸びをした。

避ける間も無く,唇が触れる。



「おまっ……」



こいつが俺のなんじゃない。



「あはっ,可愛いじゃん。あつ」



俺が,こいつのものなんだ。

満足げに笑い,自身の唇に触れる碧の表情(かお)は。

周りの言う様な,天使なんかじゃない。

悪魔にだって,勝っている。
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