ふられたラブレター

第一章


○地下鉄のホーム 早朝

麗らかな春。高2に進級した西谷さくらは通勤、通学で混雑する朝の地下鉄のホームで一大決心をしていた。

さくら(白北学院2年の一條颯真くん···
一年前、地下鉄で困っているところを助けてもらい好きになった憧れの人。)

(毎朝、駅で颯真くんを見るたびに好きな気持ちがどんどん大きくなって···
一年分の想いを込めて書いたラブレター、今日こそ颯真くんに渡したい!)

緊張で心臓の音が全身に伝わる位ドキドキしながら待っていると、反対側から颯真が歩いて来た。

さくら(あっ、颯真くんがこっちに向かって来る!もう今しかない!)

颯真の前に立ちはだかるさくら。

さくら「あのっ、突然すいません。私、一年前からずっと颯真くんのことが好きでした。良かったらこれ読んでください!」

さくらは震える両手で手紙を持ち、深々と颯真の前に差し出した。

ざわつくホームの雑踏も何処に、二人を取り巻く周辺だけが閉ざされた世界のようにシーンと静まり返っていた。

もしかしたらほんの数秒の沈黙だったのかもしれないが、さくらにはとても長い時間のように感じた。

さくら(あ、あれ?)

颯真からの返答がない。
しかし、颯真の表情からして答えは大方予想出来た。

颯真「ごめんなさい。」

“やっぱり”さくらは内心そう思った。
そして喉の奥から絞り出すようにこう言った。

さくら「······私の方こそいきなりすみませんでした。でも、せめて手紙だけでも受け取って貰えませんか?」

颯真「···ごめん。」

颯真はそう一言だけいうと、表情一つ変えずに地下鉄に乗り込んだ。

その場に一人残されたさくらは、ぼう然と立ち尽くしていた。
周りからは憐れみの目で見られ、ヒソヒソと話す声がどこからともなく聞こえた。



○さくらの学校 教室

教室の自分の椅子に座り、落ち込む様子のさくら。

さくら(はぁ······辛いなぁ。)

友人みっちゃん「さくらおはよ〜ってなんか元気なくない?」

さくら「実は···颯真くんにふられちゃった。」

ここは学校だし友だちに心配かけたくないからと、さくらは泣きたいのを必死に我慢して精一杯の作り笑顔をして見せた。

みっちゃん「えっ!?ふられたって···ってかさくらついに告白したんだ。入学したての頃颯真くんがナンパ集団から助けてくれて、それからずっと好きだったもんね。」

さくら「うん。あれから一年経ってやっと告白する決心がついて。でも“ごめんなさい”って。手紙すら受け取って貰えなかった···。」

みっちゃん「そっかぁ。それは辛いね···。
颯真くんのことすぐには忘れられないと思うけど、むしろ無理に忘れなくても良いと思うんだけど!」

「完全に吹っ切れた時にさ、きっとまた良い人に出会えるよ。さくら可愛いんだし!」

みっちゃんの言葉に少し元気が出たさくら。

さくら「ありがとうみっちゃん···好きっ!!」

さくらはみっちゃんに抱きつき、クラスメイトは二人を温かい目で見ていた。


○さくらの部屋 夜

さくら(告白したけどダメだったなぁ。でも気持ちは伝えられたし、しょうがないよね。)

(ラブレターは···受け取ってもらえなかったけど、気持ちの整理がつくまでは大切にしまっておこう。)

さくらはラブレターを引き出しにそっとしまい込んだ。そして机に顔をうずめて、ふられてから初めて泣いた。


○翌日 地下鉄のホーム 早朝

颯真と顔を合わせないように、時間と車両をずらして地下鉄が来るのを待つさくら。

それでも心配で、周りをキョロキョロしながら颯真の姿がないかチェックする。

さくら(良かった、颯真くんまだ来てないみたい。)

ホッと胸をなでおろしながら、やってきた地下鉄に乗り込もうとしたその時ー

颯真「ちょっと待って。」

右腕をつかまれたさくらが後ろをふりむくと、そこには颯真が!?

さくら「えっ、そ、颯真くん!?」

驚きと動揺を隠せないさくらに颯真は真剣な顔で言った。

颯真「さくら、俺と付き合って。」
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