悪役令嬢ふたりの、のほほん(?)サバイバル暮らし

ふたりの悪役令嬢

「この野草が食べられるとお思いなのッ!?」

 のどかな風景の広がるネスビット山脈のふもとに、ヒステリックな高い声がこだました。

「アルベルティーヌさん、この草は時間をかけてアク抜きすれば十分おいしくいただけるのよ。まったく、どれだけ無知なのかしら? これくらい知っておかないと、この先やっていけなくてよ?」
「ふぅん、そうですの……。って、ああっ、パメラさん! 野ウサギがあちらの茂みの陰にいましてよ!」
「なんですって!? すぐに捕まえて今日の夕飯にしなくてはなりませんわ! アルベルティーヌさん、いきましてよ!」

 パメラと呼ばれた女は、背負っていた使い古された矢を持って立ち上がる。キツい切れ長の碧眼がキラリと光った。完全に獲物を狙う狩人の目である。

「いいですかアルベルティーヌさん。わたくしが野ウサギを追いかけますから、貴女はわたくしのほうに野ウサギを誘導なさって」
「さ、指図しないでちょうだいッ! わたくしを誰だと思っているの!?」
「はいはい、王国屈指の名家であるハルベリー家の一人娘であり、第一王子さまの元婚約者の、アルベルティーヌ・ル・ハルベリー様ですわ。そういうお約束のセリフは、とりあえず夜ご飯を調達してからにしてくださいまし」
「た、確かにその通りですわ」

 そう言って、アルベルティーヌと呼ばれたもう一人の女が立ち上がった。輝くブロンドの縦ロールが、爽やかな秋の風に揺れる。

「さあパメラさん、行きますわよ」
「ふん! 狩るのはわたくしなのに、アルベルティーヌさんったらすごく偉そうねぇ」
「あら。身の程を分かっていないようですわね。貴方は誰の屋敷に居候していると思っているの? わたくし、貴女に指図する権限くらいはあると思うのですけれど……」
「まあ! そこまでおっしゃるのであれば言わせてもらいますわ。その血肉はだれの食事でできていると思っていますの? 放っておけば飢え死にしそうな生活力しかないくせに!」

 完全に、ああ言えばこう言うという状況である。

 お互いを小突きあいながら、二人の悪役令嬢は縦ロールをふり乱して、野山に向かって駆けだした。
< 1 / 22 >

この作品をシェア

pagetop