囚われのシンデレラーafter storyー


 俺よりずっと小さい唇を覆うようにキスをする。

この唇の感触を、そばにいない時に何度思い出しただろうか。

「―――んっ」

漏らす吐息も残らず全部取り込むように唇で塞ぎ、
差し入れた時、必ず最初は逃げるのに、俺が捕まえるとたどたどしく重ねて来る。
その可愛い舌に夢中で絡ませた。

少しずつ熱くなって、力が入らなくなってくる身体に愛おしさが溢れる。

あずさが付けた痕がとっくに消えてしまった身体を、夜の寝室で一人持て余し、隣にあの笑顔がないことを思い知った。

二年間、ずっと会えずにいて。いつ会えるとも分からなかった時を思えば、十分過ぎるくらいに幸せなはずなのに、人の心はわがままだ。
ひとたび、この腕に取り戻してしまったら、もう会えないでいることが苦しくなっていた。

「あずさ……会いたかった」

俺に身を預けるあずさをきつく抱きしめる。

ここにいる。会いたくてたまらなかった人が、俺の腕の中にいる。

「佳孝さん……」

ようやく、躊躇いなく呼んでくれるようになった名前。あずさが呼ぶ時だけ、それは特別な響きになる。

「ん?」

今すぐ抱いてしまいたいけれど、この顔をじっくりと見たい。
あずさの前髪を手のひらでかき上げ、そのまま頬を包み込む。

寝室のベッドで、腕に抱きながらあずさを見下ろした。

「今日、慌てさせちゃってごめんね。もしかして、空港に行こうとしちゃいましたか?」
「……実は、そう。でもタクシーに飛び乗ってもう一度メールを確認したら、アパルトマンの近くで時間を潰しているからって書いてあって。慌てて引き返した」

包み込んだ頬を、その輪郭を確かめるように撫でる。

「いくらなんでも慌てすぎです」

あずさが笑う。本当に、自分でもどうかしていると思う。

【急遽、パリに寄ることにしました。たった今、空港に着きました――】

この日の終業時刻にスマホを確認して、突然そんなメールが飛び込んで来て。
そのメールを受信した時間も確認しないままで、身体が勝手にタクシーに乗り込んでいた。

今着いたということは、入国手続きを済ませて外に出るまでにまだ時間がかかる。今から急げば、そんなに待たせずに済むかもしれない。

とにかく空港へ――。

ただそれしかなかった。
仕事でそんな不注意なことをしたら、一発アウトだ。部下にもいつも言っていることなのに、このありまさだ。

 あずさが、何も言わずに来たのは、俺のことを考えてくれたからなのかもしれない。
仕事に支障を来さないようにという気遣いだったのだろう。

 タクシーに乗り込んだ俺の元に、すぐにアベルから電話が掛かって来て。その後に、詳しい情報を得ようと改めてあずさのメールを確認して、それでまた慌てて。
それからあずさに電話をして「今からすぐに帰る」と言ったのだ。

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