囚われのシンデレラーafter storyー


 コンチェルトは、通しで弾けば40分かかる。曲の終盤に来た頃、いよいよ身体が辛くなって来た。

あと、数分で終わる――。

そう言い聞かせて身体を騙し、集中力を研ぎ澄ませることで音色のクオリティを維持した。ここで中途半端な演奏なんかしたら、松澤さんの耳は絶対に誤魔化せない。

 本当に集中さえすれば、不思議な力が働くもので。曲を終えるまで、問題なく、むしろいつも以上の出来で弾き通すことができた。

 でも、その分大幅にエネルギーを費やしているから、曲が終わった途端に気が緩んでその場にしゃがみ込んでしまった。

「お、おいっ、大丈夫か!」
「だ、大丈夫です……」

松澤さんの声にすぐにでも立ち上がろうとしたが、足にも上半身にも上手く力を入れられなくなって焦る。
たちくらみかもしれない。

「立てないのか? もしかして、今日、ずっと体調が悪かったのか?」

もともと大きい声の松澤さんが、慌てるように声を張り上げるから、周囲もざわめき始める。

「すみません。でも、少し休めば大丈夫ですから。それよりオケの皆さんを――」

これで今日の合わせが終わりなら、そう言ってあげないと帰るに帰れないのでは――。

と、それが心配になってそう返したら、すぐにその言葉も遮られた。

「何が大丈夫なんだ! どうして体調が悪いならそう言わない。今すぐ、病院に行くぞ」
「え……っ、あ、で、でも、自分でこの後は考えますから……っ、きゃっ」

身体は軽々と宙に浮く。

「だ、大丈夫ですから、下ろしてください!」

松澤さんに抱き上げられているのだと理解して、体調どころじゃなくなった。

「君の身体は君だけのものじゃないんだぞ。私のソリストだ。何かあってからでは遅いんだ」

周囲の人たちの視線も私に向けられ、「マツザワの言うことを聞いておけ」と英語で伝えて来た。

「分かりました。でも、せめて、下ろしてください。病院も自分で行きますから」
「だめだ。途中で倒れられて怪我でもされたら困る。それに、君はフランス語はそんなに出来ないだろう。病院でどうやり取りするつもりだ」

慌てふためく私を完全に無視して、がっしりと私の身体を腕で支えてしまう。

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