囚われのシンデレラーafter storyー


 松澤さんには、体調を崩した翌日にお詫びと回復の報告のメールを送っていた。

その時以来だ。
何か用事だろうかと、メッセージを開く。

【体調はどうだ。問題ないか?】

リハも近い。気にかけてくれているのだろう。すぐにそれに返信した。

【もう万全です。ご心配おかけしましたが、まったく問題ありません】

返信し終わりスマホを手にしていると、それがすぐに振動した。

【それは良かった。今、部屋か?】
【はい。部屋で練習をしているところです】

バイオリンを置き、ベッドに腰掛ける。
またすぐに返信が来た。

【もし体調に問題ないなら、少し出て来られないか。今、君の宿泊先のホテル1階ラウンジにいる。曲のことで話がしたい】

「え……っ?」

思わず声を上げてしまった。

ここに――?

これまでの、指示の変更があるのかもしれない。リハ前に調整しておくのが松澤さんのやり方だった。

【分かりました、今行きます】

そう返信して、財布と楽譜と筆記用具をバッグに投げ込んで部屋を出た。


 エレベーターに乗り、一階へと下りる。

 フロントの先、エントランスの脇に軽食が取れるラウンジがある。そこで周囲を見回すと、窓際のソファに座りコーヒーを口にしている松澤さんの姿を見つけた。

「松澤さん!」

声を掛けると、その顔が上がる。急いでその場へと向かった。

「わざわざ来ていただいて、すみません」

失礼しますと頭を下げて、向いの席に座った。

「先日は、本当にご迷惑をおかけしました。もう、この通り完全に元の体調に戻っています」
「……ああ、元気そうだ。安心したよ」

カップを置くと、松澤さんが少し微笑んだ。でも、その表情はぎこちない。

そして、どこか落ち着かない様子で、何か言葉をいいあぐねている。

「あの……」
「君が倒れた日、西園寺さんがここに駆け付けただろう」
「え……?」

そうかと思ったら、私を探るような視線を向け、そんな話題を持ち出したので驚く。

「あ、ああ、はい。彼が松澤さんに会ったと言っていました。彼と言葉を交わしていたなんて知らなくて、驚きました」

そのままに言葉を返したのに、何故か松澤さんの表情は更に強張る。

「――彼は、何か言っていたか?」

低く鋭い声が発せられる。

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