囚われのシンデレラーafter storyー


 この日の公演の、すべてのプログラムが終わった。

 着替えを済ませてから、挨拶をするため松澤さんの控室へと向かう。指揮者である松澤さん専用の個室だ。

 松澤さんとの共演はこの日が最後。

 これまで、どれだけ大きなものをくれたのか。

一緒に仕事をすることで、たくさんの経験と新たな自分を見つけることが出来た。そして、演奏家として大切なことも教えられた。


 控室のドアをノックする。

「はい」
「進藤です。今、よろしいですか」

そう声を掛けると、ほんの少しの間の後、「どうぞ」と返って来た。

「失礼します」

ドアを開けて部屋に入ると、応接セットのソファに座っていた。
燕尾服のジャケットと蝶ネクタイが外された、ラフな格好が公演の後を物語る。

「お疲れのところ、すみません。改めて、お礼と挨拶をさせていただきたくて」

そう言って、ソファに腰掛ける松澤さんのそばへと向かう。

その視線が私に向けられ、松澤さんも立ち上がった。

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