囚われのシンデレラーafter storyー


 明る過ぎるほどの陽射しで目覚める。目を開いたままで動かずに、見慣れた薄汚れた天井を見上げた。

目覚めたばかりの気怠い身体が、少しずつ機能し始める。

ベッドに横たえていた腕を上げて、手のひらを見つめる。

西園寺さんと――。

無我夢中で抱き合った時に触れた手のひらの感触を思い出す。

西園寺さんの吐息、私に向けられた眼差し。

――あずさ。

熱っぽく囁かれた声。

ホテルの部屋でのことが鮮明に蘇り、一気に心拍数が上がる。

どうしよう、急に実感が湧いて来た。
乱れに乱れてしまった自分を思い出して、たまらなく恥ずかしくなるのに。

嬉しい。
嬉しい。
最高――!

「きゃーっ!」

ベッドの上で脚をばたつかせる。

また、西園寺さんに会える。
声が聞きたくなったら電話出来る。

これからは、この先を不安になったりせずに西園寺さんといられるんだ――!

枕を抱きくるめ身体を左右に激しく動かしながら、声にならない呻き声を上げる。

現実だよね――?

今度は、自分の頬を思い切り強くつねった。

「痛いっ!」

勢い余って、強くし過ぎた。

痛くても、全然痛くない。
自分でも何言っているのか分からない。

痛くてひりつく頬のまま、笑っている自分。
もう、何でもいい。

とにかく、最高に嬉しい――!

悶えるようにベッドの上で転げまわっていると、ドアを激しくノックする音がした。

「――アズサ! 何事?」

あ――しまった。

隣の部屋の留学生の声だった。

「ごめんね、うるさくして。何でもないから」

慌てて声を張り上げ謝った。




これから、新しい日々が始まる。
また、西園寺さんと二人でいられる。


部屋の窓の外の街並みが、別のものに見える。

たとえ離れて暮らしていても、これからはあの人の近くにいられる。

私のバイオリンを一番近くで聴いてもらえる。


< 8 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop