竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜


(ううん。日本にいた時だって、誰かにこんな目で見つめられたことはなかった……)


 竜王様の大きな手が私に向かって伸びてくる。乱れていたのだろう。そのまま髪の毛を一房つまむと、そっと私の耳にかけた。


「二人でいる時は、俺のことはリュディカと呼べ」
「えっ……」
「わかったな。また明日も来るから」
「あっ! それは……」


「できません」という言葉すら言えない早さで、竜王様は姿を変え、窓から飛んでいってしまった。あっという間に彼の姿は闇に溶け込み、もう影も形もない。


 残されたのは、妙に高鳴る心臓の音だけ。私はその耳の奥まで響く音を打ち消すように、ブンブンと頭を振った。
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