竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜


「まだリコ様の処遇は決まっていませんし、迷い子様なら丁重に扱わないといけません。それに高位貴族のシリル様との面会ですから失礼のないようにしましょう」
「……そうなんですね」


 たしかにそうだ。日本でも嫌だからと言って、重要な仕事の場にスウェットでは行かない。同じように身分の高いシリルさんとの面会なら、この世界の基準に合わせなくちゃ。批判する女性達と会うわけでもないから、今回はちゃんとしておこう。そんなふうに反省していると、鏡越しに見えたリディアさんは私の髪を器用に結い上げながら、少し困ったような顔で笑っていた。どうしたのだろう?


「……それに」
「それに?」
「お呼びしたのはシリル様だけですが、きっとあの方もご一緒だと思いますから」
「あの方……?」


(シリルさんと一緒に来そうな人……それってやっぱり)


 リディアさんのその言葉で、ある人の顔が思い浮かんだ瞬間。バンと大きな音を立てて、部屋のドアが開いた。着替えのための衝立で姿は見えないが、こんな登場をするのは彼しかいないだろう。私はひょいと顔を出し、声の主を確かめた。


「リコ! 準備はできたか!」
「竜王様、ドアが壊れます」


 そこに立っていたのは予想通り、うんざりした顔のシリルさんと、楽しそうに笑う竜王だった。
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