婚約破棄寸前の令嬢は、死んだ後に呼び戻される
 他人が聞いたら気を使って言ってるのねと思うかもしれないが、師匠は本当にこういう人だ。デリカシーのかけらもないし、実際にこの魂入り魔石を作った私に感謝すらしていたはず。でもここまできたなら私だって魔術の研究を楽しんだ方が気が紛れそうだ。


「それで魔法陣はどうやって書いたのですか? 見せてください」
「ああ、魔法陣はこれだ」


 広げられた魔法陣をじっくり見ながら「ここはなんでこの書き方なのですか?」とか「この呪文は弱すぎませんか?」などエドワード様を質問攻めにする。


 魔法陣の説明に夢中になっているエドワード様(45歳)をちらりと見上げると、まるで15歳の2人に戻ったような気持ちになって鼻の奥がツンとしてくる。魔法陣ではなく自分をじっと見ている私に気づいたエドワード様は、「うわ!」と叫んで驚いて顔をふせた。


「サラ! 顔が近いよ!」
「近いですけど、私はスケスケですから息はかかりませんよ?」
「そういうことじゃ無いんだけど……」


 エドワード様は耳まで真っ赤になって、まだ顔を手で隠している。しばらく顔を伏せながら何かブツブツと言っていたが、いきなり顔を上げこちらを振り向いた。


「魔術のことを話してる場合じゃなかった! あの日のことを謝りたいんだ」


 そう言ってエドワード様がポケットから出した物を見て、思わず息を呑む。テーブルに置かれたのは、あの日私が書いた恨みつらみが書かれた手紙だった。
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