若旦那様の憂鬱
そんな事を言い合ってたらあっという間に自宅に着く。

「ありがとう。じゃあ、また夕方ね。」

ドアを開けて降りようとすると柊君もすかさず降りてきて、
私が雪に滑らないように手を繋いで歩いてくれる。

「康君いたらバレちゃうよ。」

急いで手を離そうとするけど、
ぎゅっと握られて離してくれない。

「康生にはバレても問題無い。
それより花が転んでケガでもされる方が怖い。」
そう言われてしまう。

「中学生の時に転んで骨折したの、
忘れたなんて言わせないからな。」

あっ…そんな事もあったような…。

だからみんな雪が降ると心配するのか…
と、納得する。

「…あ、そんな事も、ありましたね…。」
つい小声になってしまう。

「花が救急車で運ばれたって聞いた時、
こっちは心臓が止まるんじゃ無いかってくらい心配したんだからな。」

「…すいません。」
そう言われたせいか普段より慎重に歩く。

石畳も転ばず歩けてホッとする。
玄関をカギで開けて中に入る。

「少し寄っていく?」
そう言いながら玄関に入ると、
柊君も入って来るからお茶でも出そうかと考えていると、

バタンと扉が閉められ急に抱きしめられる。

びっくりして仰ぎ見ると、そっと顎に指を添えられキスされる。

えっ⁉︎
っと思っているうちに何度も角度を変えてキスが降り注ぐ。

呼吸が上手く出来なくて息が乱れる。

そこにすかさず舌まで差し入れられ、
絡められ吸い取られ、口内を好き勝手に動き回る。

頭がボーっとなって、
ガクンと力が抜けて座り込みそうになる。

柊君が、ぎゅっと抱き止めて唇をやっと離してくれる。

早急に繋げられた唇が熱い。

柊君の腕の中、乱れた息を整えながら
ドキドキと脈打つ心臓の音だけはなかなか鳴り止まない。

「お礼はこれで充実だ。」

そう言って笑ったかと思うと、
私の真っ赤な頬に軽くキスを落とす。

「じゃあ、夕方な。」

と、爽やかに立ち去ってしまう。

何が起きたか分からないくらい頭が理解する前にいなくなってしまった。

私は1人、玄関先でしばらく呆然と立ち尽くす。
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