若旦那様の憂鬱
そして、その地下の駐車場に車を停めた。

まさか…とは、思うけど…。

「この上に、俺んちがある。」

柊生はいつものように車を降りて、
花の為に助手席のドアを開けてくれる。

頭の思考が止まった花を車から下ろして、
手を繋ぎ引っ張って行く。

花は思う。
柊君は、確かに老舗旅館の御曹司だし、
きっと資産とかもあるんだろうけど…

それにしても…

ここって……高層マンションだよね⁉︎

この辺りでは珍しい高さのマンションで、
建った当時は話題になったくらいだった。

ちょっと離れた旅館からも見えるくらいの高さ。

「花、ぼーっとしてると転ぶぞ。」

柊生がそう心配そうに花の顔を覗き込む。

「だ、大丈夫…。」

花は柊生の導くままにエレベーターに乗る。

そのまま最上階の38階に到着した。

えっ⁉︎ここ?

恐る恐るおぼつかない足取りでエレベーターを降りる。

「こっち。」
 
柊生が、2箇所しか無いドアの一つにカードキーをかざすと、ガチャと玄関ドアが開く。

「入って。」
と言って、靴を脱いで花を招き入れる。
緊張のせいか、靴を脱ぐのを躊躇する。

柊生は壁にもたれ、
しばらく花が落ち着くのを見守る事にする。

あんな事を言わなければ良かったと、
今になって後悔する。
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