若旦那様の憂鬱
そんな事もあろうかと、
柊生は父から預かってきた戸籍謄本を袂から取り出して、祖母に渡す。

「これは…。」

その戸籍謄本を見ながら祖母は眉間皺を寄せ問う。

「はい。父と女将さんが再婚した時に、
実は、花とは養子縁組をしていなかったと、
出来なかったと父から先日話がありました。
花の戸籍は以前、実父の元にあります。
心情的にも、出来るだけ早く出してあげたいと思っております。」

はぁーと、祖母はため息を吐く。

「小心者の正俊のせいね…。
あの子に柊生ほどの強さがあったら良かったのだけど…。
ごめんなさいね、花ちゃん頼りの無い父親で。」
今度は祖母が花に頭を下げてくるので、
花は困惑して首を左右に振る。

「お、お祖母様、やめて下さい。
むしろ私の方が、勝手に一橋を名乗ってしまっていた事を謝らなければなりません。」
そう言って、花は頭を下げる。

「柊生、入籍だけ早くしなさい。
女将から花ちゃん達が受けた酷い暴力は聞いています。
花ちゃんを守らなくてはなりません。」

まさかの祖母の言葉に、人知れず柊生はホッとするが顔には出さずに冷静さを保つ。

「ありがとうございます。
では、善き日を選んで籍を入れたいと思います。」
そう言って、再び頭を下げる。
花もそれを見て一緒に頭を下げる。

「花ちゃん、柊生は一橋の男の中では出来た人間よ。
合気道も弓道も最後まで根を上げずに成し遂げたのは、柊生だけですから。
祖父の血を受け継いだのは柊生だけなのかしら…。だから、大丈夫。
柊生を信じて付いて行けば間違いないわ。」

祖母からそんなお墨付きまで貰って、
花は緊張が解けて笑顔を見せる。

柊生は祖母からまさかのお褒めの言葉を貰い、さすがに動揺して一瞬言葉が遅れるが、

「お許しを頂きありがとうございます。」
そう締めくくって頭を下げる。
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