若旦那様の憂鬱
「花、今日は遅番だから学校まで送っていく。」

「ありがとう、でも自転車で大丈夫だよ?」

「予報では夕方から雨が降りそうだから、帰り困るだろ?」

「雨なんだ…じゃあ、お願いします。」
花は素直に頷き、お気に入りのクロワッサンを美味しそうに食べ始める。

「美味しい?」

「焼き立てでふわふわ。癖になりそう。」
嬉しそうに笑う。

最近は週末以外本当に時間が無くて、朝食のこの時間だけが、唯一2人で過ごす貴重な時間だった。

今夜も遅番のため帰りが10時を回るだろうし、週末まで花を抱くのはお預けだろうなと、残念な日々だ。

「花、週末は水族館だから体調壊さないように、ちゃんと早く寝ろよ。夜も眠かったら寝ててくれていいから。」

「…うん。分かった…。」
そう言うけど、不服そうに俺を見る。

「何?不服そうだな。」

「お仕事だから仕方ないけど…なかなか2人の時間取れないね。」

「抱いて欲しいのか?」
単刀直入に言うと、花の顔がボッと真っ赤になる。

「あ、朝から、爽やかな顔で、な、何言ってるの?」
花に嗜められておれは苦笑いする。

「俺はいつでも抱きたいけど。」
サラッと本音を口にする。

花に触れられない日々はある意味拷問に近い。

はぁーと、大袈裟にため息を吐く。

「…週末は土日で一緒にいられるんだよね。」

「ああ。無理矢理親父にお願いした。
金曜日、仕事終わりに出発するから荷造りしておいて。」
週末は2泊3日で旅行の予定だ。

ニコッと花は笑って、
「楽しみ。」
と、すぐにご機嫌になる。
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