若旦那様の憂鬱
「ただ、これはちょっとした出会いの場だと思えばいいんじゃ無いかって、花ちゃんもお年頃だし、彼氏の一人でも欲しいんじゃ無いかなぁって。
しかも家柄もしっかりとしたお相手なら、親としてはなお安心だ。」
「花は、喜んで承諾したのですか?」
柊生は顔色も変えず、淡々とした表情で話す。
父は思う。
柊生は子供の頃から気持ちが分かり難い子供だった。
器用に本心を隠す為、親でさえも見抜けない。
どう言う心情で話しかけてきたのか表情では読み取れないくらいだ。
「花ちゃんは、とりあえず会って見るだけで良かったら。って言ってたよ。」
「貴方からの話を無碍にする訳にもいかなかったんだと思いますよ。ところでお相手はどこの方ですか?」
柊生は無性に腹が立って早くこの場を去りたいが、大事な事を聞き出さなければいけないと苛立ちを抑える。
「言ったら君、直接苦情の電話しかねないでしょ?」
「そんな大人気ない事しませんよ。」
正常心を繕って何気ない顔で笑う。
本当に分からない…
柊生の本心はどこにあるのか…
父親として20年以上一緒に居るのにと思う。
弟の康生はあんなに分かりやすいのになぁーっと…考えながら、
「大手旅行会社の御曹司だよ。今年、30歳くらいだったかなぁ。物腰は柔らかいし、紳士的な人だから人間的にも問題無いよ。
そろそろ花ちゃんだって恋の一つもした方が、素敵な女性になれるだろう?」
「お見合いと恋愛は別では?
そこに政略的な意味が無かったとしても、最終的に結婚有きになるのかと思いますが。」
あくまでお見合いは、結婚相手を探す目的だと父に知らしめる。
人物についても検討がついた為、父からはこれ以上聞き出す事は無いと話を切り上げる。
「くれぐれも手出し無用だよ。君が前もって守らなくても、花ちゃんは充分大人になったんだ。
自由にさせてあげるべきだろう。」
柊生は、自分の父親ながら食えない人だと思う。
今まで、花の周りに飛ぶ虫を俺が何らかの方法で追い払っていた事に、気付いていたのだろうか……。
「そうですね。
どこぞの良く知らない人よりは、家柄も地位も申し分無いみたいですし、安心しました。では、仕事に戻ります。失礼します。」
微笑みを浮かべ柊生は一礼して離れていく。