若旦那様の憂鬱

偶然を装い、目線を向けて会釈をする。

「お疲れ様です。」

若旦那の仮面を被り、和かに呼びかける。

「お疲れ様、柊生。
花ちゃんの写真取りに行ってくれた?
僕も見たいから、本人に渡す前に見せてよ。」

「それは、本人から承諾を得てから見せて貰って下さい。」
笑いながら、しかしキッパリとそう伝える。

「冷たい奴だなぁ。」

父は苦笑いを浮かべる。

「花にお見合い話を持っていったのは貴方ですか?」

「えっ?
えっと……誰に聞いたのかな?」

親父は、明らかに動揺して目が泳ぐ。

「ただの噂だと思ったんですけど、
違ったようですね。
花はまだ20歳になったばかりですし、
早すぎるのでは?」

鋭く単刀直入に聞く。

「はぁー。もう耳に入っちゃったのかぁ。
柊生には後からの報告が1番いいと思ってだんだけどなぁ。」

「残念ながら、知ってしまったので、
一言言わない訳にはいけません。
なぜ、花にお見合い話を?」

「いやぁ、知り合いの社長さんにどうしてもって言われてさぁ。
本当は僕だって嫌だなんだよ?
確かに、まだ早いと思ったし、
花ちゃんには旅館と関係無い生き方をして欲しいからね。」

頭を掻きながら親父は、先を話す。
< 93 / 336 >

この作品をシェア

pagetop