若旦那様の憂鬱
偶然を装い、目線を向けて会釈をする。
「お疲れ様です。」
若旦那の仮面を被り、和かに呼びかける。
「お疲れ様、柊生。
花ちゃんの写真取りに行ってくれた?
僕も見たいから、本人に渡す前に見せてよ。」
「それは、本人から承諾を得てから見せて貰って下さい。」
笑いながら、しかしキッパリとそう伝える。
「冷たい奴だなぁ。」
父は苦笑いを浮かべる。
「花にお見合い話を持っていったのは貴方ですか?」
「えっ?
えっと……誰に聞いたのかな?」
親父は、明らかに動揺して目が泳ぐ。
「ただの噂だと思ったんですけど、
違ったようですね。
花はまだ20歳になったばかりですし、
早すぎるのでは?」
鋭く単刀直入に聞く。
「はぁー。もう耳に入っちゃったのかぁ。
柊生には後からの報告が1番いいと思ってだんだけどなぁ。」
「残念ながら、知ってしまったので、
一言言わない訳にはいけません。
なぜ、花にお見合い話を?」
「いやぁ、知り合いの社長さんにどうしてもって言われてさぁ。
本当は僕だって嫌だなんだよ?
確かに、まだ早いと思ったし、
花ちゃんには旅館と関係無い生き方をして欲しいからね。」
頭を掻きながら親父は、先を話す。