彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode.1】
「もう……無茶はダメです」

「大丈夫だ。俺を信じてついてこい。誰にもお前は渡さない」

「俊樹さん……」

 彼女の腕を引いてもう一度抱きしめる。今日の兄貴との面会は仕事でもあり、プライベートでもある。俺は決心した。

 菜摘のことは、もう少ししてから紹介しょうと思っていたが、この会社で横やりを入れられることが今後もあり得るとわかった。
 
 社長と今朝面会したときに、大口の取引を氷室商事とうちで締結させることを条件に菜摘の秘書業務を外さない取引をした。

 社長は会長の意向には逆らえない。だが、この額の取り引きなら頷かざるを得ない。

 社長に聞いて分かったが、おととい会長は菜摘と直接話をして、かなり彼女を気に入ってしまったらしい。

 打てば響くような物言い。物怖じしないことや、相手を見て言葉を選ぶ。そういったことが普通に出来る。秘書として欲しい素質だ。

 仕事が出来ることは、前の部長が彼女を秘書室へ取られたくないとごねたことや、社内の噂もあって確信していただろうから、時期社長として目をかける達也の秘書に据えたいと考えるのは間違ってはいない。

 このままだと、いずれ何らかの理由をつけて菜摘を達也に奪われかねない。今回は良くとも……いずれ社長になる達也が力をつけてくれば、俺では太刀打ちできない。

 彼女を俺のテリトリーから出さない方策を本気で考えるときが来たようだ。今度はその道筋をつけるため、兄に会わせるのだ。菜摘と僕を繋ぐ鎖の準備は万端だ。
 
 
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