イケメンエリート、最後の独身
「萌絵ちゃん、ここはどうしてことだまマンションって名前なんだろうね」
謙人の質問に萌絵はクスッと笑った。
「きっと、幽霊が出るんですよ…」
謙人は体が弱っているせいか、つま先からぞくっと寒気が走る。
そう言われれば、そういう風にしか見えなくなる。エントランスの壁には茶色のシミや意味の分からない落書きが目立っているし、管理人用の小窓にはバランスの悪い大きな南京錠がぶら下がっている。
「何だか寒くなってきた…
本当に近くに幽霊がいるのかもしれない」
謙人の今までの人生の中で、幽霊に出くわした事はない。そういう状況になった事もない。というか、そういう幽霊とかいうものを真剣に考えた事がなかったし興味もなかった。
でも、今は怖くてたまらなかった。
恋をすると、幽霊まで怖くなるのだろうか…
「このマンション、今、エレベーターが壊れてるんです。
私の部屋は四階なんですが、謙人さん、階段上れますか?」