イケメンエリート、最後の独身


 明智さんは優しい人だけれど、ホヨンさんは怖すぎる。
 萌絵にとって、EOCの会社の印象も全てにおいて最悪だった。ホヨンが萌絵の担当になった時点で、キラキラしているはずのEOCの空間が恐怖の空間へと変わった。
 でも、そんな中、謙人の思いやりのある優しさに触れて、萌絵の我慢していた感情があふれ出た。
 ホヨンがいる間は、絶対に泣かないと意地を張って頑張っていたけれど、謙人の優しい問いかけにもう涙が止まらない。

「前田さん…
 そうしていただければすごく助かります…
 どうぞよろしくお願いします」

 萌絵は深々と頭を下げた。
 今の萌絵にとって謙人は救世主だった。
 …神様、どうか、謙人さんが意地悪な人じゃありませんように。

 萌絵は謙人の後ろについて歩き出す。この時間になると、オフィスには誰も残っていない。
 謙人は全ての照明の電源を落とすと萌絵の方を見て「行くよ」と声をかけた。そして、萌絵を先に歩かせる。
 萌絵はオフィスを出る時のマニュアルをホヨンから教わっていた。今の謙人の動きを確認しながら、必死に自分の頭の中に叩き込む。
 謙人は正面入り口ドアの横に付いているモニターにIDカードをかざすと、パパっとナンバーを打ち込んだ。

「これでOK」


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