太陽と月の恋
コンビニで買ったパスタサラダを食べていた頃、電話がかかってきた。

河辺剛。

少し高鳴った胸を摩りながら、落ち着いて電話に出る。

「もしもし?」
「もしもーし」

後ろから車の音がする。
ちょっと聞こえにくい。

「外?」
「そうだよー、今家着いたとこ」

バコン、カンカンカンカン、ピーポーピーポーと背後から静かながらもずっと人の生活する音が聞こえてくる。最後、ガチャガチャ、ギィ、バタン、とした音で一気に背後が静かになった。

「あーさむかった」と電話の向こうで言う。

「おつかれさま」と言うと「うん」と言う。

「ちょっと待ってね」と声の後に、ガタッゴンッとスマホが置かれ、勢いのいい水の音がしてガシャガシャ水の中で手を擦り合わせ、すぐにガラガラッとうがいする音が聞こえてきた。

一人の男の人がそこで暮らす音だ、とくすぐったい気分になる。

「おまたせ」と彼はまた出た。

「ご飯食べたの?」
「まだ食べてないよ、コンビニで買ってきた」
「何買ったの?」
「ないしょー」
「教えてよ」
「あー待って、お湯沸かすわ」
「カップラーメン?」
「あっ、バレた!」

彼は電話の向こうでアハハと豪快に笑いながら、「分かった、これスピーカーにすればいいんだね」と言ってきた。

私も真似するようにスピーカーにしてテーブルの上にスマホを置き、会話を続ける。

「なんかさー」と河辺さんが切り出す。

「もう年末じゃん」
「そうだね」
「地元いつ帰るの?」
「私30かな、29が仕事納め」
「いっしょー、それまでに1回くらい会える?」

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