跡取りドクターの長い恋煩い
 「ああ。この車なら笑美里が安心して練習出来るだろう?
 大阪に比べたらこっちの方が交通量も少ないし、少しずつ練習していこう」

 「……」

 なるほど。私のためにこの車を選んだのか。もうどんな変化球が来ても受け止められるようになってきたけど、次は車だったかー。
この人、本当に私のこと好きね……。
 
 そういえば確認することがあったんだ。

「宗司くん、丸首のスクラブって何?」

「あ、届いたのか! あれに変えろ。
Vネックはダメだ」

「……どうして?」

「笑美里は巨乳なんだ。Vネックは谷間が見えるじゃないか」
 
 私の両肩に手を置いて話す宗司くん。
 はぁー。理由はそんなことだろうと思ったけど案の定だったな。

「……アンダーシャツを着てるわ」

「アンダーシャツが見えるのも問題外だ!
 笑美里のおっぱいは俺だけのものなんだから!」

「……はぁ。わかった。有難く着さてもらう」

 呆れちゃう話だけど、やっぱり嬉しいと思っている私がいる。この人の執着心に毒されてきたのかな。

 「途中で少し寄るところがあるから、2時間くらいで着くかな。混んでなければの話だけど」

 寄り道とは、私の実家への手土産のことだった。
 やっぱりすごいな、社交マナーまで完璧だわ。
 廣澤家御用達の和菓子屋で旬のフルーツ大福を購入する。母が喜びそうだ。
< 162 / 179 >

この作品をシェア

pagetop