跡取りドクターの長い恋煩い
 「福岡君のご実家って、同じN県のもう少し南の方で地主さんをされているそうなの。親戚も多くて、籍を入れるだけなんて結婚は許されないみたい。お披露目とか考えるといろいろ大変なんだって」

 「ああ……親戚関係が多いとそうなるな」

 「千聖としては、せめて研修医の間だけでもしがらみのない状態で過ごしたいらしいの」

 「なるほど。そういう理由なら入籍を先送りにしたい気持ちもわかる。
 ただ本当に空いてないんだよ、並び部屋は」

 「そっか……」

 そうよね。そんなに簡単にはいかないよね。
 私達だけ隣同士という恵まれた環境で少し罪悪感があったのだ。宗司くんにお願いしたらなんとかならないかな、と思ったのも事実だ。

 「……一度、見に行ってみるか?」

 「え? 何を?」

 「部屋だ。俺たちの部屋」

 「部屋? ……ってなに?」

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