跡取りドクターの長い恋煩い
「あの……確かに今の状況じゃ宗司くんが責任を感じるのも理解出来る。
 でもだからって結婚というのは……」

 たった一度肌を重ねただけで大げさ過ぎる。そもそも本当にしたのかどうかも疑問なのに。

「やっぱり、俺じゃ嫌か……」

「へ?」

「責任を取る、なんて言われても困るよな……俺なんて……」

 えぇっ?  ちょっと、何その寂しそうな顔。やめてやめて!

「困らないから!  宗司くんがイヤとかじゃないの。そうじゃなくて」

「困らないならいいじゃないか」

「はい?」

「付き合っても。俺の事、嫌じゃないんだろう?」

「う、うん?」

 そこで宗司くんがにっこり笑った。

「良かった」

「えっ」

 なんだこれ?  ……あれ?
 もしかして今の『うん』で私がOKしたことになっているの?

「じゃあ結婚前提ってことで」

 そう言った宗司くんが、これ以上ないくらいの笑顔で私を見た。
 ま、眩しすぎる……。
 
「笑美里、よろしくな!」

 手を差し出されると、ついその手を握ってしまうのが人の習性だと思う。
 ガシッと手を握られ、つい握手してしまう。

「えっと……よろしくお願いします?」
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