跡取りドクターの長い恋煩い
「でも私たちじゃ、川崎室長にはとても……」

 どうやら栄養管理室の川崎室長は恐れられているようだ。

 それにしても、ドクターが栄養管理室とのやり取りなんて普通は避けて通りそうなのにな。
こういうことを面倒だと逃げる人は多いと思う。でもこの人はちゃんと自分で解決しようとする人なんだ。

そう思うとちょっと尊敬の念が湧いた。

 こうして今後の対策を考えた後、回診が始まった。

 もちろん私は後ろに付いているだけ。
 宗司くんは既にどの病室に行っても人気者だった。

 問題の中島さんと日村さんも例外ではない。
 どうやら跡取りのイケメン先生という触れ込みで患者さんに知られているらしい宗司くんが話しかけると、まるで50年前に戻ったかのような乙女の恥じらいなるものを見せる。午前中、喧嘩をしていたとは思えないくらい、なんというか……乙女だった。

 イケメン効果、すごいな。
 確かに……綺麗な顔だもんね。
 私、あんな人と本当にしちゃったのかしら。
 記憶がなくて良かったのかも。もし覚えていたら、仕事中まともに話せないかもしれない。恥ずかしすぎるもん!

 ……あの唇と……キスしたのかしら……。
< 63 / 179 >

この作品をシェア

pagetop