独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「おはよう、彩萌」



会社のエントランスに足を踏み入れると、背後から声をかけられた。



芙美(ふみ)、おはよう。今日は取引先に直行って言ってなかった?」



「先方の都合が悪くなって延期になったの……って彩萌、スカートの裾が黒いけどどうしたの?」



顎下までの艶やかな茶色の髪を揺らし、同期で親友の遠井(とおい)芙美が瞬きを繰り返す。

私たちは新宿に本社を構える、(つた)製菓株式会社営業課に所属している。



「え……ああ、さっきぶつかって転んだから……」



ベージュのタイトスカートの裾が汚れているが、これくらいなら自宅で洗濯すれば落ちるだろう。


「ちょっと、大丈夫なの?」



「うん、ケガもしてないし」



「気をつけてよ。この間も長身の男性とぶつかってなかった?」



「あれは落とした小銭を拾ってもらっただけよ」



「そうだっけ? ともかく無事でよかったわ。ほら、急ごう。ミーティングに遅れちゃう」



親友の声に腕時計に視線を落とす。

確かにあまり時間に余裕がない。

慌ただしくエントランスを抜け、営業課フロアに足早に向かった。

その後はバタバタと業務をこなし、午後七時過ぎに退社し、帰路に就く。

私の実家から新宿までは二時間近くかかるため、勤務先から電車で三十分ほどの都内のマンションで独り暮らしをしている。
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