独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
そのすべてを私への配慮だと考えていたなんて、どれだけおめでたいのだろう。

瑛さんにとって必要なのは“妻”と“赤ちゃん”で“私”じゃない。

心の奥深くに氷塊を埋め込まれた気がした。

ずっと冷たいままの指先は、すでに感覚を失っている。



「――だから、彩萌はなにも心配しなくていい。悪いが、俺はもう一度会社に戻る。今日は遅くなるから先に休んで」



早口で告げながら、立ち上がる。

整いすぎた面差しに、感情の乱れは見えない。

彼が長い腕を伸ばして、私を抱きしめた。

厳しい口調とは裏腹に、背中にそっと回された優しい手の感触に胸が詰まる。



行かないで、会社には朝霞さんがいるのでしょう?



喉元までこみ上げた願望を、必死に押しとどめる。

醜い胸の内は絶対に知られてはいけない。

背中に回したいと願う手を、拳が白くなるくらいに強く握りしめて制御する。



この腕は、私のものにならない。


彼が心から抱きしめたい人は私じゃない。


気づいた現実の残酷さに、心が悲鳴を上げる。

声を出せば泣いてしまいそうで、腕の中でぎこちなくうなずく。

私の反応を訝しみもせず、彼は頭頂部に小さなキスを落として足早にリビングを出て行った。

玄関ドアが閉まる微かな音だけが、無情に響いていた。
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