独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
その後、里帆にうるさく言われたせいもあり、渋々もっともらしい口実をつけて彩萌の勤務先を訪ねてみた。

初めて会った、実物の彩萌は後輩らしき人間の話を真剣に聞き、慰めつつも諭していた。

詳細はわからないが、後輩が失敗をしたのだろう。

うちの親族なら頭ごなしに怒るところを、彼女は褒めていた。



『頑張っているのは知っているし、あなたの気遣いはいつも素晴らしいわ。でも今回はちょっとだけ言葉が足りなかったのよ。だからお互いに行き違ったの』



声を荒げもせず、優しく話していた。

その姿が、衝撃的だった。

失敗を馬鹿にもせず、蔑みもせず、受け入れて諭す。

きちんとわかるように説明し、結果ありきで話さない。

ましてや褒めていた。

遠縁とはいえ梁瀬の人間なのに、彼女は驕りもせず、出自も隠していた。

ビジネスライクな話を持ち掛けるつもりが軽いショックを受け、そのまま帰路につき、里帆を呆れさせた。

しかも勘の鋭い幼馴染はどこか楽しげな表情を浮かべていた。

これまで俺は、自分が関わる物事すべてに、きちんと答えを出してきた。

でも彩萌に抱く感情や気持ちの変化は、なにひとつうまく表現できない。

本家に連れて行く前に説明をして、“婚約者役”を演じてもらうつもりだった。

愛さないと宣言だってした。


けれど。



『お前は今から俺の婚約者になる。入籍は来月、結婚式は再来月だ』



するりと口から出た言葉に、一番驚いたのは俺自身だった。

もともと本気で婚約や同居、入籍をする気なんてなかった。
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