独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
俺が誰か知らないうえ、明らかな不快感と警戒心を露わにする女性。

少し釣り目がちの目は雄弁に気持ちを語り、表情がくるくると変化する。

パッと目を引くような派手さはないが、豊かな表情から目が離せなくなる。

本家で一方的に罵倒され、恐ろしいはずなのに毅然と立っていた。

逃げも責任転嫁すらせずに。

誰かの姿に視線を奪われたのは、初めてだった。

自分が巻き込んだ事態とはいえ、俺のすべてで本気で守りたいと強く思った。

そばにいて、悲しませたり泣かせずに、ただ甘やかしたい。

笑顔が見たい。

初めて感じる気持ちに戸惑いを隠せない。



……この感情は、なんだ?



答えを知るためにも、手離したくない。

彼女は、俺のものなのだから。

心の奥底から湧き上がる想いに抗えず、病み上がりだというのに抱いてしまった。

腕の中で乱れていく彩萌の姿に、温もりに、心が充足感と多幸感に包まれた。

あれほど誰かを求めたのは初めてで、目が覚めた際には温かな感触に心が満たされた。



「……俺も大概自分勝手だな」



自嘲気味な声が漏れる。

そのとき、スーツの胸ポケットから振動が伝わり、スマートフォンを取り出す。



【ちょっと、本気で婚約するつもり? 計画と違うし、どういう心境の変化? 驚愕なんだけど!】



彩萌との婚約を報告した幼馴染からのメッセージに、苦笑する。

里帆は今、渡仏準備を着々と進めている。

しばらくはフランスと日本を行き来するらしい。



ああ、そうだろうな。



俺自身が一番驚いてる。



だけど、もう手離せないんだ。



本当は、薄々気づいている。


恐らくこれが――俺の初恋だ。



……やっと見つけた、俺の唯一なのだと。
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