【砂の城】インド未来幻想
「本当に……良かったわ。自分の受賞を取り下げてもらわなくて」

「……え?」

 折った膝に頬杖を突いたシュリーは、心から安堵したという様子で大きく息を吐き出した。

「これで約十日、あなたと一緒に居られるのだもの」

「シュリー……」

 刹那喜びと共に元気の良いウィンクが投げられて、ナーギニーは嬉しさに頬を赤く染めた。

「でも……」

 が、シュリーは続けた言葉を途切らせながら、にこやかな笑顔に突如として(かげ)りを見せる。おもむろに膝を引き寄せ、ナーギニーを見上げる体勢で片頬を乗せた。その瞳が徐々に涙を溜めて潤み、唇は哀しみを湛えながら少女の心の内を探った。

「あなたは、本当は……シャニ様に……嫁ぎたくなどないのでしょ?」

「……」

 「大切に育ててもらった家族への恩があるから」――押し黙ってしまったナーギニーの代わりに、シュリーの加えた補足はまさしく的を射ていた。少女は観念したように小さくコクリと首を上下させる。それでも砂の城へ行きたい理由はもう一つあることを、シュリーには告白したいと考えていた。けれどあの青年のことを思い出すや胸が張り裂けんばかりに高鳴って、やっと開いた唇からは、とうとう言葉が零れ出すことはなかった。


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