【砂の城】インド未来幻想
 明らかに少女は十日後に待ち受ける披露の結果と、落選によって再び訪れる母親の態度の変貌、更にシャニの不気味な視線に怯えていた。例えシヴァと名付けたあの青年との再会を願っても、シュリーの付添いとも思える同行がなければ、ナーギニーは単身城へ乗り込むなど不可能であったかもしれない。隣に並んでラクダの背に揺られるシュリーの笑みは、舞踊大会での励ましと同様、心を落ち着かせてくれる温かな勇気を与えていた。

 万歳を繰り返し盛り上がる墓廟を背に、一団は一路砂の城を目指し始めた。これから三、四日を要する長旅が続く。二人は祭り最終日の家臣と同じく、黙々とラクダを操る使者達に連れられて、砂塵漂うアグラの街を後にした。今一度振り返り見上げた先の墓廟は、徐々に黄砂に纏われ、あたかも幻の如く砂色の空へ溶けていった――。


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