【砂の城】インド未来幻想

[手業](てわざ)

 長く連なるラクダの一行は、タージ=マハルから真っ直ぐ東に進み、やがて広々とした土手を降りた。(いにしえ)、墓廟裏手を流れていたヤムナ河の、ささやかな名残を覗かせる緩やかな窪地。聖なる河ガンガー最大の支流であるこの河の女神は、太陽神スーリヤの娘とされるが、同時に死者の王ヤマの妹ヤミーでもあるのは、此処に数多(あまた)の遺骸や死灰が流されたからだろうか?(註1)

 ひたすら続く谷を道標(みちしるべ)として、行列は砂の城の地ヴァーラーナスィーへ向け、方角を南東に定めた。それはかつての本流であったガンガーの堤といつしか合流し、しばらく進めば到着となる。城までの距離は約五百キロ。ラクダの脚ではかなりの日数を要する道のりだが、三晩を過ぎる頃には迎えの使者が待つ広大な直轄地の境界へ辿り着くという。

 アグラの街の中心部は、まだそれなりに樹木が見受けられた。しかし郊外に移るや草の一本を見つけるのにも難儀するような、延々たる砂漠が広がっていた。早朝の輝かしい太陽(スーリヤ)は、いつしか厚い灰色の雲で隠されている。お陰で暑さは(やわ)らいでいるが、水気のない空気が素肌の瑞々しさを奪い去ろうと、顔に掛けるヴェールの隙間を意地悪そうに吹き抜けていった。


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