【砂の城】インド未来幻想
「ご堪能いただけただろうか? 明日は王宮の庭園を案内しよう」

 昼食までの時間は自由に、と言いつけてシャニが立ち上がる。続けて身を起こした美姫達の中、真後ろの少女にいきなり背中を押され、ナーギニーはシャニの足先で、両手を地に突き四つん這いに倒されてしまった。

「大丈夫かい? ナーギニー」

 頭上からゆっくりと声が響き、目の前に分厚い掌が差し出される。その指の全てには大小色とりどりの宝石が輝いていた。

「は、はい……大丈夫です」

 慌てて背後に下がり、その手には触れることなく起き上がったナーギニーは、(かたき)でも見るような周囲の眼差しに耐えながら、極力シャニの(もと)から遠ざかろうとした。

 が、三方を少女達に囲まれ、鼻先すぐ傍には王の含みのある微笑み。まるで獲物を追い詰めたドールの群れと化した幻に、ナーギニーは今一度地面に身を丸めたい気分だった。

「手を取ってくれても……良かったものを」

 其処へ投げ込まれる更なる妬みのエッセンス。執拗な欲望を湛えた声の主から逃げるよう、ナーギニーは深く一礼をし、人垣を縫って河の方向へ走り去った。

 やがて心落ち着かせた少女は、足元の水面(みなも)に映る怯えた自分の姿を見た。

 そして振り返った先には――全員の手の甲へ順に口づけをする、満足そうな王が居た――。


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