【砂の城】インド未来幻想
「そんな……もったいないわ! それにわたしはてっきりイシャーナ様に贈る物なのだと……」

 その申し出にシュリーは慌てた様子を見せた。まさか自分への贈り物だとは思ってもみなかったのだろう。

「飾ってしまっては傍に置いてもらえないもの……それに私は、シュリーに使ってもらいたいの」

 返そうとするシュリーの手を制し、ナーギニーは懇願の眼差しを向けた。シュリーのハンカチーフにはどれだけ涙を(ぬぐ)ってもらったか分からない……どれ程の愛情を戴いたかしれない……自身の危険も(かえり)みず助けてくれたシュリーは、もはや親友以上の親友であった。そんな友に何も返せなかった自分が、ついに心を込めた形ある物を生み出し、贈ることの出来る時が来たのだ。

 もちろんイシャーナにも捧げたい気持ちは大いにあった。美しい花飾りに、想いの募った手紙と(あら)たかな宝石、温かな励ましも優しさも沢山受け取ったのだから。けれど……もはや手渡せる機会もなく、もしそれがシャニの眼に留まれば、イシャーナと王妃の立場が危うくなる。せめて明日、最高の舞を観ていただくこと――それだけが唯一、少女が青年に差し出せる恩返しに思われた。

「そう……? なら……大切に、大切に使わせてもらうわね」

 シュリーは申し訳なさそうに、そして心から嬉しそうに、刺繍布を胸に当て微笑んだ。

 ナーギニーも満ち足りた笑顔を返し、再びの舞踊大会に向け、最後の稽古をおねだりした。





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